撮 影

撮 影
撮影とは距離を考えること。
それは物理的距離であり、心の距離であり、好奇心の距離である。
対象を見ると言うよりも、四角いフレームで切り取る感覚を身に付けることかな。
撮影の基礎として押さえておきたい項目を先ずは挙げておこう。
1.三脚撮影が基本だが・・・。 2.露出・フォーカスはマニュアルを使用。 3.ビューファインダーの調整方法を確認する。 4.フォーカスリング・ズームレバーの動きは指に叩き込む。 5.両目を開けて撮影。 6.フレーム全域に神経を行き届かせる。 7.引き、寄りの距離を意識して撮影ポジションをとる。 8.気に入らなければ何テークでも撮り直す強引さを持つ。 9.ホワイトバランスを理解する。 10.カメラ機材は膝を曲げて持ち上げる習慣を身に付ける。
1.三脚使用の撮影が基本だが・・・
ムービーカメラの撮影は三脚使用が基本だ。
三脚はカメラの動きのベースとなるもので、パン・チルトなどカメラの動きそのものが映像として写し撮られてしまう。それは映像表現の善し悪しを大きく左右する重要な要素を作り出す機材と言うことだ。 耐用年数も長く、人の操作と直結して作画に影響する繊細な機材でもある。業務用となると高額な物も多いが、経済的に許される最高の物を購入されることをお勧めする。
選択においては、カメラの性能と同等に機能をよく把握して選択したい。構造的にもスチルカメラの三脚とは異なり、ヘッドのバランスを保ちながら動かす事を前提に作られているので、搭載荷重範囲を把握し、三脚を選択しなくてはならない。
照明や受信機、更にプロンプターまでも取付けて撮影しなくてはならない条件では、搭載荷重の大きいヘッドを予め用意しておく。しかし搭載荷重が大きければ全て良しと言うわけでもなく、ヘッドをスムーズに動かす為には搭載荷重範囲にある事が大切だ。
撮影条件によって変わる水平バランスの取り直しが速やかに行えることが大切で、そのために暗い所でもカメラの水平を速やかに出すことができるように、水準器に照明が組み込まれている物もある。
この速やかに水平を出す為の構造がボール三脚構造だ。
このヘッドには2種類の100mmと75mmのボール径の物がある。搭載荷重が大きく重心位置が高い機材を使用する頻度が多い場合は、100mm径の物の方が耐過重も大きく水平出しもスムーズに行える。しかし100mm径のものは全体の重量が増し運搬の負担も増え、同時に経済的負担も大きくなる。
昨今の小型カメラ使用が前提であれば75mm径のもので十分だ。また三脚足は自重が軽くて耐荷重があり、ねじれに対し強い物を選ぶ。
三脚とカメラの着脱はフネと呼ばれる三脚取り付けプレートを使用する。カメラの着脱をスムーズに行う為の必需品だが、着脱の多い現場ではカメラ固定の確認を忘れないで欲しい。
補足だが、何故着脱にこだわるのかと言うと、如何に早くカメラを臨戦態勢に持って行けるか、と言う課題があるからだ。ロケ現場では何が起こるかわからない。その対応に三脚は邪魔なのだ。
移動制限の多い三脚を捨てて手持ちで撮影する気持ちを忘れてはいけない。
体を如何に三脚にするかだが、左手を拳にして右脇下に入れて支えるだけでもカメラのホールディングは楽になるし、周りにある物は何でも利用して体を安定させればいい。
実は砂袋はを変形させて座布団にして使用するのは良い方法だが・・・重い。そこでウレタンビーズを入れた袋を作ってみた。これだけでも実践においてカメラのホールディングの範囲を広げてくれるものだ。
2.露出はマニュアルで設定
カメラの機能はとても進歩しているが、基本的にオートは補助的な付加機能と考える。
カメラに操作されるのではなく、カメラを操作するのがカメラマンだ。
モニターの正し調整を身に付け、ゼブラ機能を良く把握して露出を自在にコントロール出来るようにすることが必要だ。と、考えると家庭用ムービーカメラは実に使い辛い。
手軽に手早く簡単に撮影出来るように進化したカメラだからだ。
作画を意識した撮影を望むなら、最低でもマニュアル機能の充実したカメラを選択して欲しい。
ここで少し露出機能について詳しく説明しよう。
まず、適正露出とは何だろうか?
極論的には撮影者が理想とする画像の明るさの事だ。
銀塩写真の用語ではラティチュードと言う言葉を使い、電子回路の用語ではダイナミックレンジと言う言葉を使う。基準は別のものだが、黒く(暗く)つぶれてしまう所から白く(明るく)飛んでしまう範囲を指し示す用語だ。
それはハイライト部からシャドー部の階調表現を語るときの基準となる定義だ。古くは印画紙から、昨今のデジカメ画像の全てが、この明るさの範囲の中で、黒はより黒らしく白はより白らしく、豊かな階調を表現することを目指して来た。
それは人間の視覚のように、臨機応変に見える事を追求して来た歴史でもある。しかし実際の人間の網膜上のレセプターが、同時に感知できる光量の範囲はそれほど広くなく、人間の網膜のダイナミックレンジはCCDよりも狭いとも言われている。
視覚に於ける明暗の差が大きい対象物は、明暗それぞれ別に認識して脳の中で2つの画像を合成していると言うことだ。昨今のデジカメで流行のHDE(ハイダイナミックレンジ合成)を人は潜在的能力としてやっているわけだ。
人が表現として追い求める要素として、HDRは理にかなっているのかもしれない。しかし実際の見え方はHDRの様にはならない。人が望む映像とは、網膜の残像なのだろうか、それとも脳が認識する情報を表すことなのだろうか。
露出とはそんな人間の豊かな営みを、意識的に操作する行為とも言える。
技術的にみるとビデオ回路はIREという単位で輝度を表し、0IRE(7.5)~100IREの範囲で輝度を現すと決められている。IREは比率で現しているから0%の黒から100%の白と言い換える事もできる。
実際のビデオ信号のダイナミックレンジは一般的に100%から110%で設定されており、デバイスとしての2/3型CCDのダイナミックレンジは最大600%と言われている。
この100%以上の明るさの情報をカメラ内部で処理する。その調整をするのがKNEE(ニー)調整となる。高輝度部分の信号をカメラのダイナミックレンジに収め、約109%以内のレベルで出力されるように圧縮する機能だ。
一般的なワンマンオペレートの撮影ではKNEE調整をする事はまず無いと思うが、複数のカメラを使った撮影では、被写体の輝度の変化をカメラごとにKNEE調整で整える。 この作業はVE(ビデオエンジニア=露出などを制御する専門家)さんの領域となる。
カメラマンの露出操作の具体的指標の一つがゼブラ模様だ。機種による違いもあるが、ゼブラ模様は2種類あり、100%以上の箇所に全て表示するゼブラ模様と、任意に設定(50~107)した範囲±10%の箇所にのみにゼブラ模様を表示する2種類だ。
中間輝度を何処に持って来るかを考えれば、露出のコントロールも理解し易いと思う。ちなみに人の肌は70前後だから、ゼブラ設定を70にしておくと一つの目安になるとも言われている。が、私は嫌いで、条件によっては画面の景色がゼブラだらけになって気が散ってしまう。ゼブラのon/offもあるのだが、いちいちその操作をするのも煩わしく、私は100に設定している。
画面中の輝度ピークを把握し、主となる被写体の適正露出を加減して行く。その為にもビューファインダーの調整は必須だ。
3.ビューファインダーの調整方法を確認する
撮影する環境に左右されるビューファインダーの見え方を整える、基本的操作方法を説明する。
調整にははカラーバー出力と、ビューファインダーーについているブライトネスとコントラストの調整つまみで行う。
先ずカメラに内臓されるカラーバーを表示させる。
次にブライトネスとコントラストつまみを最大までしぼる。(一番暗い状態)
その状態からブライトネスつまみを徐々に回して0IREと+4IREの境界線がギリギリわかる処まで回す。
このギリギリ見える状態をビューファインダーの明るさの基準と考える。
ブライトネスを合わせてからコントラストを調整し、徐々にコントラストを上げて見易い状態に近づける。
この操作を繰り返し、撮影環境にあった正しく見易いビューファインダーに調整して行く。
4.フォーカスリング・ズームレバーの動きは指に叩き込む
カメラを持ち、レンズに手を伸ばし、フォーカスリングに指を添える。
この時、リングの遠距離・近距離への回転方向を確実に把握する。
またフォーカスリングの通常の基本的位置は遠距離最大値の∞位置にしておく。それは遠距離からのリング移動量の方か、近距離からの移動量よりも少ないからだ。 リング移動距離が少ない分だけ早くフォーカスを送る事が出来る。
出来ればリングの移動量で変わる距離を、指で感覚的に掴んでおくとベストだ。
当然撮影開始のフォーカスはズームのT(テレ)端にし、拡大フォーカス機能のある機種ではon/off切り替えて拡大表示にし正確にフォーカスを合わせる。
その位置を基準にして被写体の動きを把握し、フォーカスリングを指で覚えた距離分の移動ができれば合格だ。 くれぐれもフォーカスを前後にまさぐる様な事の無いようにしたいものだ
ズームはオートとマニュアルの使い分けが必要だ。 ゆっくりとしたズームとカメラのパーンを併用した撮影では、電動ズームを使う事になる。
電動ズームとマニュアルの切り替えスイッチの位置は確実に把握し、スイッチを見なくても切替ができるようにしておく。またマニュアル時のワイド(W)とテレ(T)の回転方向はフォーカスと同様確実に把握しておく。
5.両目を開けて撮影
撮影時の全体の動きを把握する為にも、ビューファインダーを覗きながら反対の眼で周りを見て欲しい。意識してこの習慣を身に着ければ撮影時の安全確保にもつながる。
6.フレーム全域に神経を行き届かせる
言うは容易い内容だが、撮影の根幹とも言える難しい事柄なのだ。
そもそも撮影すると言う事は、フレームに入れるか入れないかと言う選別する作業だ。
対象を見ると言うよりも、四角いフレームで切り取る感覚を身に付けることだ。
7.引き、寄りの距離を意識して撮影ポジションをとる。
カメラマンの良し悪しはこれで決まる。
漫然と対象にカメラをむける奴はカメラマンには向かない。
撮影を熟達したければ全てにおいて距離を意識することだ。
8.気に入らなければ何テークでも撮り直す強引さを持つ
気に入らないと言う事は、理想のイメージを持つからに他ならない。
イメージに対象押し込めてはいけないが、イメージ無くして対象に翻弄されるのも考えもんだ。 現場で妥協したら後では取返しがつかないことになる。
9.ホワイトバランスを理解する。
始めにザックリと色温度に付いて理解しよう。
ウィキペディアによれば「表現しようとする光の色をある温度(高熱)の黒体から放射される光の色と対応させ、その時の黒体の温度をもって色温度とする」とある。
また違う辞書によれば「物体は高温にすると光を出すようになるが、この時の光の色と物体の温度との間には一定の関係がある。この関係を逆手にとって、物体の温度で光の色を表すのが色温度だ」と説明されている。
私たちの日常における、暖かい光から冷たい光までの色を、科学的に定量化して数値で表現したものが色温度と考えればよさそうだ。
光を科学的に説明されてもピンと来ないかもしれないが、一般的に晴天の日陰で7500k、日中の太陽光は5500K、蛍光灯5200K、白熱電球は3000K、ろうそくでは1800k ぐらいと大雑把に把握しておく。
光の種類が変わっても人間の目は白は白として認識できるが、カメラでは光の種類により被写体の色が変化してしまう。 この時に見た目に近い色に補正する機能がホワイトバランスだ。
オートホワイトバランスは画面内の被写体の色に偏りが少ない場合は、色合いを補正して見た目に近い色に補正してくれる便利な機能だが、夕日や蝋燭の赤味を表現したい時や、朝靄の青味が欲しい時にはオートは厄介だ。
基本的にはマニュアルで設定するのが基本で、白かグレーの基準となる用紙を用いてホワイトバランスを取ることになる。
レンズ直前に光拡散(乳白色)フィルターを置いてホワイトバランスを取るやり方は、用紙を置く手間が無く即応性がある。 一例としてProDiskなどはポケットに入る大きさで、グレーとカラーバーのカードが一体となっており重宝している。
また緊急でホワイトバランスを合わせなくてはならない場合など、身辺にある色味の少ない、アスファルト・ガードレール・雲でもなんとかなる。
そんなにアバウトで良いのかと言われそうだが、実は色を整えると言うのはホワイトバランスだけではなく、反射による色かぶりの問題や光源の演色性の問題、カメラ特性などを含めた繊細な問題で一筋縄では行かない。
その事を理解した上で、先ずは撮影現場で出来る最善の方法で色温度を合わせているに過ぎない。
ここでカメラのホワイトバランスのプリセット値に付いて考えてみたい。
民生用機には数種類の撮影条件を設定することで、この適応を簡素化しているわけだが、業務機は3200Kがプリセットの初期設定のみとなっている機種が多い。
ビデオカメラのホワイトバランスのプリセット値が3200Kに設定されているのは、撮像板のデバイス特性からなのだろうが、不思議とフィルム時代のタングステンタイプ(3200K)を彷彿とさせる値だ。
機種のもよるが、このプリセット値を任意に設定できる機種もある。そこでいっその事、野外での収録時にはプリセット値を5500Kに設定してしまう事で、緊急時に即応するのも手かもしれない。
10.カメラ機材は膝を曲げて持ち上げる習慣を身に付ける
カメラは油断しやすい重さだ。
撮影時のカメラの上げ下げには、腰を屈めて手を伸ばしてカメラを持ち上げる姿勢は腰を痛めやすい。
始めは意識して膝を曲げて腰を落とす姿勢で持ち上げる。
この習慣を身に着ければ腰痛は半減する。
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